高校時代、放課後にファーストフード店でMサイズのポテトを友達とシェアしながら喋るのが楽しみだった。今となっては何を話していたか思い出せないくらい他愛もない話にキャッキャはしゃいでいたのだと思う。何をするでもなく時が過ぎていった青春時代だった。  そんな筆者とは対照的に、静内農業高校の生徒たちは濃い日々を過ごしている。競走馬の出産に立ち会い、仔馬を育て、セリで売却する。生き物相手だから365日、誰かが当番で世話をせねばならないし、セリでいかに多くの馬主に入札してもらい高く落札されるかも考えなければならない。  2023年、北海道市場サマーセールにおいて200万円(税別)で落札された静内農業高校の生産馬がいた。のちにマギーズミッションと名付けられたその牡馬は昨年11月、佐賀競馬場で初となるJBC当日の佐賀第1Rでデビューを迎えた。佐賀競馬は静内農業高校の生徒2名と引率教師を招待した。  デビュー戦を懸命に走ったマギーズミッションは4着。目の前で走りを見届けた生徒たちは「重賞レースかなというくらい多くのファンの前でデビューできて、安全に走り切ってくれてよかったです」と身近だった馬が競走馬へと成長した姿に興奮した。  2人はともに馬に携わりたくて大阪府や札幌市から静内農業高校への進学を決めた。そして、青春の3年間を馬に捧げ、卒業後は競馬関連の仕事に就くという。  「目の前で勝たせてあげられれば良かったんだけどね」  真島元徳調教師は悔しそうにそう話したが、10代の彼らにとって何物にも代えがたい経験となったことだろう。  佐賀競馬の関係者にとっても貴重な経験となったJBC開催。  「想像以上にたくさんのファンが来てくれて、何十年ぶりかに活気ある競馬場を見て感動しました」  と真島調教師。2月6日(木)に行われる今年の「佐賀記念(JpnⅢ)」(ダート2000m)は、師にとって例年以上に力の入る一戦となるだろう。というのも、管理するシルトプレ(牡6)が出走を予定しているからだ。  門別競馬場でデビューしたシルトプレは、川崎や盛岡への遠征を含め北海道所属時に重賞6勝を上げた。さらに、JRA札幌のエルムS(GⅢ)には2年連続で挑戦して5着、4着。JRAのダートトップホース相手にも引きを取らない実力を証明して見せた。昨秋のJBCクラシック(JpnⅠ)で4着した後は北海道に帰らず、そのまま佐賀に移籍。移籍初戦の中島記念を楽勝すると、1月11日の特別戦もアッサリと勝利。力の違いを見せつけた。  門別時代から調教をつける石川倭騎手(佐賀で期間限定騎乗中)は「欠点がなくて、乗り難しくないのがシルトプレの一番いいところ。レースで能力を出し切れるので、大きな舞台でもしっかり結果を残せているのだと思います」と話す。輸送がひとつの鍵となる馬だが、佐賀に移籍したことでその心配がなくなったのは強み。中央・地方交流となって以降、佐賀所属馬の優勝は96年のリンデンニシキただ1頭。〝28年ぶりの佐賀所属馬による佐賀記念制覇〟という大仕事をやってのけるかもしれない。  それに待ったをかけようとする地方馬が、高知のシンメデージー(牡4)。東京ダービー(JpnⅠ)4着、ジャパンダートクラシック(JpnⅠ)5着と、昨年創設されたダート三冠で地方最先着を果たすと、古馬との初対戦となった12月名古屋大賞典(JpnⅢ)で3着。ハンデ差があったとはいえ、勝ち馬からわずかコンマ2秒差の大健闘。悔しさとともに、大きな手応えも掴んだ一戦となった。  主戦の吉原寛人騎手は「去年の秋から馬体に幅が出て良くなりました」と話し、打越勇児調教師も「高知の深い馬場で鍛えられているんだと思います」と自信を覗かせた。  JRAからは、昨年覇者のノットゥルノ(牡6)が連覇を狙って参戦の意向を表明。昨年のJBCに負けず劣らず、好メーバーが佐賀競馬場に集う大一番は楽しみだ。  その他、この2月の佐賀競馬では3歳重賞が2レース組まれている。  9日(日)の「飛燕賞」(1400m)は、今年の3歳戦線を占ううえで重要な一戦。この世代は無敗3連勝中のミトノドリームが抜けた存在だが、それに対抗する馬が登場してくるか注目したい。  20日(木)の「たんぽぽ賞」(1400m)は、九州産限定の中央・地方交流3歳重賞。昨年、JBC当日に2024九州産グランプリが開催され、九州産馬への関心は確実に高まりつつある。2歳夏のひまわり賞(小倉)、3歳夏の霧島賞(佐賀)とともに、九州の生産者にとっては特別に力が入る一戦。1月下旬に行われるトライアルレースの結果で、その勢力図が見えてきそうだ。  暦の上では『立春』を迎える2月。佐賀競馬場にもひと足早く、春を感じさせるような明るい話題が満開となる予感がする。 <写真> マギーズミッションと静内農業高校の生徒 ※未着 シルトプレ 2024.12.22 中島記念(佐賀) シンメデージー 2024.11.3 土佐秋月賞(高知)