タガノビューティーのふるさとを訪ねて。 新冠タガノファーム 新冠町明和 タガノビューティー 牡、鹿毛 2017年3月16日生 父/ヘニーヒューズ by ヘネシー 母/スペシャルディナー by スペシャルウィーク 生産者/新冠タガノファーム(新冠) 馬主/八木良司 氏 調教師/西園正都(栗東) 戦績/38戦8勝(JpnⅠ1勝) 総賞金/3億9805万円 ※2025年1月20日現在(現役馬) <写真> 2024.11.4 JBCスプリント(JpnⅠ)騎手:石橋脩 タガノビューティーの半妹タガノタイリン  重賞初勝利が7歳秋のJBCスプリント(JpnⅠ)という離れ業をやってのけたタガノビューティー。デビューから2連勝をおさめて朝日杯フューチュリティS(GⅠ)でも4着した同馬に〝大器晩成〟という言葉は当てはまらないかもしれないが、デビュー38戦目、重賞挑戦19回目にしてようやくたどり着いたビッグタイトルだった。  タガノビューティーの生まれ故郷は、新冠町明和の新冠タガノファーム。かつて京都馬主会の会長を務めたこともある八木良司オーナーが2003年に立ち上げた牧場で、その前年に創設された宇治田原優駿ステーブル(京都府)を含め、サラブレッドの生産から育成までを一貫して行うオーナーブリーダーである。これまでにタガノグランパ(14年・ファルコンS)、タガノジンガロ(14年・かきつばた記念)、タガノエスプレッソ(14年・デイリー杯2歳S、障害重賞3勝)、タガノアザガル(15年・ファルコンS)、タガノトネール(15年・サマーチャンピオン、16年・武蔵野S)、タガノディグオ(17年・兵庫チャンピオンシップ)など多くの活躍馬を送り出してきたが、生産馬のGⅠ級競走優勝はこれが初めてだった。  「当日のJBC2歳優駿にタガノマカシヤ(八木良司オーナー、八木牧場生産)が出走していたので、タガノビューティーのレースは門別競馬場のモニターで見ていました」  と話すのは、創業時から八木オーナーの右腕として新冠タガノファームをいっしょに創り上げてきた田沼正美さん。それ以前は名門・荻伏牧場で長年勤務しており、八木オーナーとはその頃に知り合ったと言う。  「佐賀競馬場は小回りで直線が短く、いつものように後ろからだと脚を余してしまいそうなので、『たまには前で競馬をしてくれないかな…』と話していたら、向正面で上がっていって3コーナーをまわったら先頭に立ったでしょ。ビックリしちゃって。驚いているうちにゴールを迎えて、『えっ!? ウソでしょ? 勝っちゃったの?』という感じでした。レースのあともあまり実感がわいてこなかったのですが、牧場に戻ると次から次にお花やお祝いが届き、改めて『ビューティーは凄いことをやってくれたんだなぁ』と感激しました」  かしわ記念(JpnⅠ)は23年、24年と2年つづけて2着、24年のフェブラリーS(GⅠ)でも僅差の4着とあと一歩のところまで迫っていた悲願のGⅠ級タイトルだが、その瞬間というのは意外とあっさり訪れるものだ。  「オーナーも相当うれしかったんでしょうね。お孫さんに聞くと、早朝から何度も何度もレースを見返しているそうです(笑)。それを聞いて『少しはオーナーに恩返しができたかな…』とスタッフみんなで思っているんです」  パートを含めて11名で30頭の繁殖牝馬を管理している新冠タガノファーム。ベテランスタッフが多く、配合はみんなで話し合って決めているそうだ。  「タガノビューティーの母のスペシャルディナーはオーナーと関係の深い深見富朗さんが所有していた競走馬で、引退後に譲り受けてうちで繁殖生活を始めました」  すると、2番仔のタガノブルグ(牡、父ヨハネスブルグ)がNHKマイルカップ(GⅠ)で2着する活躍を見せ、6番仔のアイトーン(牡、父キングズベスト)は若葉Sに勝って皐月賞(GⅠ)や菊花賞(GⅠ)にも出走。そしてヘニーヒューズを交配して生まれた8番仔がタガノビューティーだった。  「不思議とこの血統は牡馬がよく走るんですよ。タガノビューティーは競馬に行くと気の強いところを見せているようですが、牧場にいる頃は手のかからない素直な性格の馬でした」  新冠タガノファームの放牧地で健やかに育ったタガノビューティーは、宇治田原優駿ステーブルでの育成を経て栗東の西園正都厩舎に入厩。2歳8月の新馬戦(新潟・ダート1800m)でデビュー勝ちをおさめると、ダートの出世レースとして名高いプラタナス賞(東京・ダート1600m)も快勝。同レースの勝ち馬エピカリスやルヴァンスレーヴのようにダート路線を突き進むと思いきや、次走は芝のGⅠ・朝日杯フューチュリティS(阪神・芝1600m)に挑戦し、後方から鋭く追い込んで4着。芝レースでもトップクラスの能力を示して2歳シーズンを締めくくった。そして3歳初戦も芝重賞のシンザン記念(京都・芝1600m)へ出走したが、ここで6着に敗れると再びダート路線へ。以降は7歳秋にJpnⅠ馬の仲間入りをするまで、一貫してダート路線を歩んできた。  その戦績の中で特筆すべきは、デビューからほぼ休みなく走りつづけてきた体の丈夫さと、どんな相手のレースでも上位に食い込んでくる堅実性。2歳時3戦、3歳時8戦、4歳時7戦、5歳時8戦、6歳時6戦、7歳時6戦とコンスタントに出走を重ね、1着8回、2着8回、3着5回、4着8回、5着1回。出走した38戦のうち30回で掲示板を確保し、21回は馬券対象となっている。まさに〝馬主孝行〟を絵に描いたような馬で、馬券を買うファンにとっても頼もしい存在だ。  タガノビューティーは、8歳となった今年も現役をつづけると言う。  「競走馬は競馬場で走っている時が花。できるだけ長く現役でいるほうが幸せだと思っているんです。西園調教師が来年2月で定年なので、『先生、最後までビューティーの面倒見てくださいね』と頼んでおきました」  次走は2月2日(日)の根岸S(東京・ダート1400m)を予定。その後は、昨年悔し涙を呑んだフェブラリーS(東京・ダート1600m)へJBCスプリントウイナーとして臨むことになりそうだ。  そして母のスペシャルディナーは生涯13頭の仔を産み、残念ながらタガノビューティーのJpnⅠ勝利を見届けることなく天に旅立った。現在はタガノビューティーの1歳下の半妹タガノタイリン(父アイルハヴアナザー)が里帰りし、その血をつないでいる。  「タガノタイリンのお腹には、タガノエスプレッソの仔が入ってるんですよ。夢があるでしょ」  そう言ってほほ笑む田沼さん。新冠タガノファームでは現在、種牡馬としてタガノエスプレッソ(父ブラックタイド)とダイシンサンダー(父アドマイヤムーン)を繋養しており、種付けも牧場内で、スタッフ総出で行っているそうだ。  〝将来、タガノビューティーも種牡馬ラインナップに加わるかもしれませんね〟と話を向けると、「勘弁してよ。年寄りにとって種付けは重労働なんだから」と田沼さんは豪快に笑った。